スーツを作る その1
「そうだ,スーツを作ろう」
個人的な好みや趣味嗜好,スーツを作るに到った経緯(身の上話)は別記事に譲るとして,とにかく,そう思い立ってスーツを作った.
時代の潮流なのだろうか,オーダースーツに関してもアフィリエイトベースの記事が非常に多いので,収益もなければ収益化する気もないし出来るわけがない弱小者が記す意義もあるだろう.
まず,筆者が求める前提を降順で記す.
- 3ピースで予算11万円以内.
- 生地がウール100%である.
- 総毛芯である.
- 本切羽やAMFステッチが無料である.
- 関東地方で注文から受け取りまでできる.
- スーツに詳しい店員がいる.
- 価格を下げられることに対して理屈がある
- 1月末までに手に入る(12月1週目注文として)
これら前提をそれぞれ検討していこう.
3まではほぼ順不同の最低条件としてもよい.
1.3ピースで予算11万円以内
誤差一割を認めた10万円の予算制約である.
この価格帯であれば,パターンオーダーは殆ど網羅できる.イージーオーダーも生地の制約は大きいが射程圏内だろう.
フルオーダーは予算が許さないので除外するとして,よほど特殊な体型でもないかぎりイージーオーダーもパターンオーダーもあまり大差はない.最近のパターンオーダーは調整できる箇所も多い.
ゆえに限られた予算を少しでも生地代に充てる為,パターンオーダーの方がよかろうと判断した.価格次第では一応考慮するが,この予算内で考えられるのはビッグヴィジョンやSADAやダンカンあたりだが,あまり良い評判も聞かない.評判が全てではないし鵜呑みにする気もないが,火のない所に煙は立たぬし,そこまで安い買い物ではない以上,素直に避けておくのが無難だと思った.
評判の良いイージーオーダーといえば花菱だが,花菱でこの予算制約条件だと,インポート生地はABRAHAM MOONとCOLCHISぐらいしか選択肢がない上に,店舗で確認したところ,オプションが結構な値段なので,予算から無視できないほど足が出る.少なくとも私においてイージーオーダーを選択するメリットはやはり薄い.
とりあえず,予算青天井ならテーラー&カッターやbatakで作ってみたかったが,ここは仕方がない.除外である.
2.生地がウール100%である.
別にインポート品にこだわるつもりはないけれど,ウール100%は最低条件の一つである.
特にコメントはない.
3.総毛芯である.
1に述べた予算制約があると,ここがかなりネックになった.ナポリ調のスーツやアンコン仕立ての楽なスーツを求めるならハーフ毛芯だが単純に好みではないので,どうにも譲り難い点である.
「良いスーツとはそもなんぞ」はしきりに議論されているが,おそらく永久に結論は出ないだろう.一種の宗教戦争だ.
しかし少なくとも私においては,副資材の良し悪しがスーツの良し悪しを分けると考えている.基本は総毛芯,ハーフ毛芯にするなら「ナポリ風の柔らかい着心地を求める」など理屈が必要だ.ゆえに総毛芯と半毛芯に上下互換性は無いが,価格を抑えるために副資材を簡略化することは看過しがたい.
いまいち何のことか判らない方の為に通り一遍の事を述べておく.芯地は大きく分けて総毛芯とハーフ毛芯と接着芯の三種類.総毛芯を軸に考えるとわかりやすい.
総毛芯は,上衿,肩補強芯,肩芯,ラペル芯,前身で出来ているが,ハーフ毛芯はそのうち,前身の芯地を第一ボタンまでに省略し,第一ボタン以下は接着芯に置き換え,肩の補強芯も使っていないものを指すそうだ*1.
接着芯は,ノリのついた化学繊維を圧着したもの.経年劣化しやすいのが難点で,野暮ったいサラリーマンが着ているスーツのラペルが細かく波打ったようによれているのを見かけることがあるだろう.それを想像してもらえるとわかりやすい*2.
最初はぴしっとしていていいのかもわからないが、とにかく経年劣化しやすい.
閑話休題.芯地はスーツの骨組みだ.影響の出にくい前身の下半分といえども接着芯は使いたくなかった.
ここで,麻布テーラーは候補から除外.
4.本切羽や台場仕立て,AMFステッチが無料である.
先にも述べたように,良いスーツの条件は自分においては副資材の良し悪しで決まると思っている.
よく「本切羽や台場仕立て,D閂や裏髭折返しは良いスーツの証」など言うが,個人的にはどうでもいい.百歩譲って必要条件なのかも分からないが,少なくとも「それらがあるから良いスーツ,ないものは悪いスーツ」ではない.もし仮にそれらが良いスーツの証なら最初から付けているべきだし,その論理が成り立つなら標準装備になっていないならば,そのテーラーは良いスーツを作ってるとは言い難い.
しかし個人的にはどうでもいいので,無料なら良いがわざわざ追加料金を払いたくはない.ピックステッチも本来あまり好きではないが,これは機能上仕方がない物と思って受け入れている.ただ,審美的な好みから外れるものにやはり追加料金を払う気にもなれない.
5.関東地方で注文から受け取りまでできる.
単純に筆者の居住地の都合である.なけなしの11万円を旅費で削りたくはない.
更にいえば,出不精なので関東地方でもなるべく行きやすいところだと嬉しい.
余談だが,素敵なテーラーは東海地方に密集しているように思えた.偶然なのか判らないが,我が国を代表する生地メーカーの御幸毛織も葛利毛織も愛知県にある.
ここで泣く泣く,リングウッド,オーダーサロンタナカ,オノの洋服を候補から除外する.オーダーサロンタナカは本当に最後の最後まで後ろ髪ひかれた.
6.スーツに詳しい店員がいる.
筆者は身体論*3や服飾史にはかなり明るいつもりだが,やはり知識は偏っている.
ファッションとしてどうか……というよりも,スーツとしてどうかということを補足してくれる方が安心はできる.ファッションセンスがあるからといってスーツのコーディネートをするセンスがあるとも限らないし,当然逆も然りである.
とはいっても,偏っているとはいえ通り一遍のことは分かっているつもりなので,あまり優先順位は高くない*4.
流行っているから,若いからと滅多やたらに裾幅15cm程度のトラウザーズを勧めてくるような店員のスーツに対する理解は解せない.「袖のボタンホールやフラワーホールをビビッドな色にするのがオーダースーツの証だ」と客を口説いて奇怪な仕様で作らされたことが容易に想像できるスーツを見かけると居たたまれなくなる.最近はあまり見かけなくなったが.
自分がそんな目に遭うとも思っていないが,ここでも何社か除外.敢えて明言は差し控えます.
あと,スーツのテーラリングに関しては個人的には極力同性がよいと思った.異性から見て云々よりも,やはり同じようにスーツを誂えて着る同好の人間としての話が聞きたい.ご年配の同性だと尚良い.殊スーツに関しては異性の意見はあまりあてにならない,と思う.
また,個人の仕立て屋さんであれば当然偏りはあっても知識は折り紙付きであろうが,チェーン店だとピンからキリまで色んな方がいらっしゃるように感じた.良くも悪くも多様性がある.
7.価格を下げられることに対して理屈がある
どうでもいいといえばどうでもいい.でも理屈があるのは好きだ.
「量販店だから生地を大量購入するため安く仕入れられる」
「曽祖父の代からこの土地で洋品店をやっているから,賃料がかかっていない」
「店舗では人を雇わずオーナーが半ば道楽でやっているため,人件費がかかっていない」
心底どうでもいい.どうでもいいけどなんか好き.
8.1月末までに手に入る(12月1週目注文として)
大概どこでも大丈夫.
以上です.
私の調査力不足もあるかもわかりませんが,これだけわがままを言うとオーダースーツ群雄割拠の昨今でもあまり選択肢は多くない.最終的に迷ったのは以下の通りです.
・Universal Llanguage Measure's
・山形屋
Universal Language Measure's以外はイージーオーダーだけど,ここまで絞れたら,逆にこの中ならもうどこでもよくなってしまった.むしろ時間が惜しい,さっさと作りに行きたい.
そこで,ちょっとずるいことが思いついたのですね.
「Universal Language Measure'sって青山商事系列だから株主優待券使えるんじゃないか……?」
早速メルカリで探してみた.15%オフの優待券が1000円で簡単に手に入った.
そんな経緯があり,Universal Language Measure'sで購入することが決まりました*5.
結局,テーラーキタハラには立ち寄れませんでしたが,お店選びのプロセスはこの通りです.立ち寄れなかったことを後悔しているので,次に作る春夏物は,まずテーラーキタハラに寄ってから検討するつもりです.
≪次回へ続く≫